先日(平成30年3月9日)の答申で三木市にある近代和風旅館「旅亭 文市楼」が登録文化財となることとなりました。相談を受けてから約9年経ってしまいましたがようやく達成できました。今回の登録には兵庫県近代和風総合調査の資料や兵庫県ヘリテージマネージャー講習会実測講習の成果品を活用しましたが、以前から活用に向けてイベントを開催するなど関わってきた中で調査したまとめを上げておきます。
料理旅館文一(以下文一旅館)は「旧小河家別邸」の路地を挟んだ南隣に位置する。
文一旅館は当初上町で「文市楼」として料理旅館を営まれていた。昭和4年頃の産業地図を見ると文市楼の向かいには文市食堂があり、こちらの経営もされていたかもしれないという。
現在の文一旅館は当初「鴨川楼」と呼ばれ、鴨川たか氏が経営されていた。文一の先々代、津田市太郎氏の妹が鴨川氏に嫁がれた縁でこの場所に移転してきたのではないかと言われている。現在の場所で料理旅館として引継がれ、「文一で修行をした板前さんは一流だ」と今も語られる。
「旧小河家別邸」と縁が深く、小河家別邸に宮さまがお泊まりになったときに文一旅館から食事を支度したと語り継がれている。
建物は昭和30年頃に一部改装を加えられているものの当時の趣を残しており、客室毎に異なる床の間や天井の意匠は改めて調査し記録する価値がある。
敷地は西側を南北に通るあかし道に専用通路のように接道している。建物はこのあかし道に面して玄関がある。間口12間、奥行11間半2階に大広間を持つ旧館と間口8間、奥行7間平屋建の新館からなり屋内渡り廊下で結ばれている。
旧館と新館の間に中庭があり旧館2階から庭を見下ろす事ができる。
旧館は玄関の奥に控え間、左手に帳場を有しさらに左手奥に調理場とサロンがある。サロンは昭和30年代に改装されている。控え間から奥には中廊下式の客室部分があるが、この部分はかつて主に料亭としての機能を担っていた。控え室の南側は便所、大浴場などの水廻りがある。大浴場、脱衣場も昭和30年代に改装されているが、曲面の天井やタイル張りの室内は今では懐古的な趣がある。
2階は客室部分と大広間部分からなる。大広間は梁間5間半、桁行6間に間口3間、奥行2間の舞台が付く。屋根はトラスで支えられている。天井は折上げ格天井。天井高3.24m。上座の床の間には直径約30cmの床柱がある。
新館は中廊下式の客室部分になる。
旧館、新館共客室部分は改装が施されている箇所があるものの、建築当初の趣向を凝らした意匠が多く残っている。床の間や棚を備えているが、その意匠はそれぞれ異なっている。また天井や建具、欄間も趣向が凝らされている。