建物は明治初期に建てられた農家であるが、昭和60年頃から住まわれておらず、休日に利用する程度でかなり傷んでいた。
相談者はかつて暮らしたこの家を改修し、故郷に住むことを望まれていたが、古い家を改修しても生活するのに不自由するようなであれば息子達の代に使ってもらうことができないと心配されていた。
改修するコストも悩ましいところであった。かなり壊れた家の全てを元に戻そうとすると、建売の住宅なら2件分と言ってもおかしくないくらいになりそうであった。平屋建ではあるが延べ面積は2件分あるのだからそれぐらいかかってもおかしくはない。
しかし、そこまでの額がかかるのならやめようか、それともハウスメーカーの住宅を新築しようかと思ってしまう。古民家を守り続けようと考えるならコスト配分が重要になる。
建物が傷んでいるとは言え、梁や柱は現在では高価でなかなか使うことができない材料である。また古民家は改修することを前提として作り上げられているので、不都合な箇所を改善する方向で改修することが最も資産を有効活用することになる。
実際工事をしてみて感じたのだが、伝統工法の材料は現在住宅の新築材料に比べ高くない。木材や土、石などカタログや定価のない材料なので捉えにくいが、新建材を使うより安くすることができる。割高に感じるのは人件費の占める割合が大きいからだ。また長い工期が必要というところも割高に感じる理由である。
これだけの技術を必要とする工事だが、人件費の単価は今回特別高いものではない。手間のかからない建物と同じような単価では、このような技術を持つ職人が減っていくのも理解できる。
古民家を守り続けようと考えるなら、職人が技術を維持できる仕事も必要だと感じた。