コンピューター雑誌「MAC POWER」はMacやコンピューター業界のことだけでなくデザイン関係のコラムも多いので毎月楽しみにしている。
「日々ノ雑感」というページには3人のコラムが掲載されているのだが、3月号では偶然か、意図してか(おそらく意図しているのだろう)3人ともデジタルよりもアナログを支持する話を寄せている。
弓田純大氏(グラフィックデザイナー)の言葉
『モニター上に現れないレンズの向こうの世界』より
デジタルの助けを借りるのは簡単だが、写真でも絵画でも、アナログでしか到達できない世界が間違いなく存在する。・・・・最終的にアナログ制作の出来に落胆し、デジタルの優位性を再認識することになるかもしれない。それはそれでもいい。何よりもまず、自分の嗜好にとことんこだわってみることが大切だろう。
瀬川英史氏(作曲家)の言葉
『Macは蔑まれるべき道具である』より
コンピューターを使った音楽制作はかなり幅が広がったが、「自由」になったかというと、そうは思えないのだ。実際、巷ではDTMの進化に伴い洋の東西を問わず、画一化された音が溢れている。
菊地美範氏(「エイアール」アートディレクター兼代表取締役)の言葉
『プレゼンテーション過剰症候群』より
ノックアウトやオーバープリントまで正確に再現され、オフセットの本刷り並みにツヤツヤときれいなプリントアウトを目にしすぎて、どれが適切なデザインかを判断する能力もなくなってしまったのだろうか。こんな状況は、誠実にエディトリアルデザインができるデザイナーを消耗させて、業界誌のTips集を漁るだけの「デザイナーもどき」を残すだけである。それでいいのか。
この3人はコンピューターを操りデジタルな環境で創造的な仕事をされている方々である。けれども、ベースにアナログな世界を持っているのだろう。「デジタルはアナログの置換えにすぎない。」と言っているような気がする。
しかしここ最近、デジタルな世界しか知らない世代が登場してきた。そのことに対する意見のようである。
建築設計についても同じようなことが言える。2次元CADが実務に使えるようになってから10年近く経つ。手書の図面を知らない世代も生まれているのではないだろうか。
また3次元連動ソフトも廉価になり、一般の家庭でもパソコンに新築計画の図面を入力しては外観パースを自動作成できるようになっている。
しかし、考えて「つくった」ものと自動計算で「できた」ものは明らかに違う。コンピューターは計算機であり、創造はしない。予め想定したものの組み合せを示すだけである。
そして考えるには手を動かさないと頭が働かないようだ。
この度の記事は「MAC POWER」というパソコン雑誌に掲載されていることが面白い。パソコン雑誌ではデジタルを推進させる記事を載せるのが普通だと思うが、それよりもこの雑誌は「パソコン(Mac)を使って創造すること」を推進させるために誌面を費やしている。たとえ、デジタルを否定する記事であっても。
私も今一度、手を動かし創造することを忘れずに心掛けようと思う。