新しい方がいいとは限らない

 住宅の建替えやリフォームを手がけることがよくあるが、同じ敷地の中に複数建物があるとき依頼主から「こちらは新しいから残すつもりです。あちらは古いので取り壊してください。」ということがしばしある。
 新しいと言ってもリフォームをしようというのだから昭和30〜40年代に建てられた建物、そして古いほうは戦前という組合せになることが多い。ところが、建物を調査すると戦前の建物の方がしっかりしているのである。
 これにはいくつか要因が推測できる。まず、戦前に建てることのできた住宅は安普請ではなかったということ。誰でも住宅をもてる時代でなかったということは、しっかりした家が当り前だったということが考えられる。
 そして戦争(第二次世界大戦)が物資、人材を多く奪ってしまったこと。戦後の焼野原から復興するため、とりあえずの状態で棲むところを繕う必要ができた。物資はそう多くない。また大工も全てでないにしろ失った状態で膨大な需要ができた。にわか大工も増えたであろう。いや、そうやって動ける状態の者がこなさないといけない状態であったのであろう。
 問題は戦後復興期から高度成長期に時代が遷っても、建物は戦前のような意識に戻らず(もちろん、一部では戻っているが)、戦後復興期の状態に慣れてしまったフシが見られる。そして、ハウスメーカーの参入する時代に突入していくのだが、プレファブ住宅や2×4住宅は別として、いわゆる在来木造工法において、細やかな規則は1999年公布の品確法まで特になかった。もちろん、建築基準法や同施行令等にも木造在来工法に関する項目はあるし、またそれを補う意味で広く利用された公庫標準仕様書も存在していたが、“最低の基準”という域からなかなか出ることがなかった。
 街は復興し住宅も数々新しく建てられたが、その技術、躯体に対する意識はなかなか戻らなかったようだ。
 そしてそれは過去のことではなく現在もその延長線上に少なからずとも載っている。
 戦後60年。失ったモノは結構大きかったかもしれない。