電話の位置と「玄関」

 住宅の設計をしていると電話を置く位置によく悩む。そういえば昔は玄関付近に置いてたよなぁ。

 漫画が掲載された頃(63年から67年)、ベークライト製の黒電話が家の廊下に鎮座していた。そのうち子機が子ども部屋にも置かれた。内田さんたちがつないできた電話網は、いまや「ケータイ」に代わられ個人と個人を直接結ぶ。
持ち運びできるケータイの登場で「家(うち)のなか」「家の外」の枠を超え、公の世界を拒否して、私の世界だけで生きていくことが可能になったという。公私の葛藤が解消されたわけだ。(正高信男 京都大学霊長類研究所教授)
from 2004年9月11日朝日新聞be「サザエさんをさがして」

 なぜ玄関に電話があったのか。他人と会話をするこの機械は「公」の場のモノであり家のなかで「公」の場となりうるのは玄関しかなかった。
 親しい間柄や重要な客は居間、応接間に通されたが、ふつう来客との応対は玄関でなされた。姿が見えないとはいえ電話もこの延長線にあったのだろう。
 新聞の記事には出てないが、電話の位置が玄関・廊下から各部屋に行くまでにリビングに来る時代もあった。電話は確実に「公」から「私」へと移っている。それも電話が家庭に普及してから30年程の間の出来事である。特に電話がリビングにきてから各部屋にいき渡り個人がケイタイを持つようになるまで10年程しか経っていない。
 一方、玄関の役割はどうであろうか。
 「公」であった電話が私的な領域に入り込み、それと同時に家のなかに招かれる場合が増えたということはないだろうか。またインターホンの発達で招かざる客はより外に遠ざけられることになった。
 玄関の役割が以前より「私」に傾いているように思うのだが、なかなか玄関をなくしてしまうことはできない。玄関の役割が変化してきているにも関わらず、「玄関は豪華にすべき」という要望が根強いようだ。
 子供の頃からケイタイを持った世代が大人になる頃、果たして住宅の玄関は変化しているだろうか。