「黄金比は美しいか」

美しくなれる建築なれない建築—慣習の美学
 7章「黄金比は美しいか」
 8章「パルテノン神殿と桂離宮」より

古くから、これらに関する権威者と思われている人たちが、しきりとほめそやして、美しいプロポーションだといったり、世界に比類のないものだといったことに、われわれ素人は見慣らされ、ついには盲従させられて、今日にいたっているような気がしてならない。

 “黄金比”やその比率を長辺と短辺に持つ“黄金比長方形”は、はるか昔から美しいと言われている。しかし著者田口武一氏は「それは本当に美しいのか」という。古くから「美しい」と言われ続け、「これが美しい」と慣らされてきたから人は「黄金比は美しい」と言うのではないかと言う。
 √2長方形は紙の規格などでよく目にする形だが(黄金比に対して白銀比と言うらしい)、こちらの方が見慣れているせいで美しいと感じる人が多いのではないかというのだ。
 パルテノン神殿も「黄金比を取入れたプロポーションである」とか、「錯視を補正するためむくりがある」というのは立面図を見ればそうかもしれないが、実際に見える場所からはそういうことなど関係がないということだ。
 ここではかねてからの「見慣れているから美しいと感じる」というほかに「権威ある人が美しいというから美しい」という考えがでてきた。
 パルテノン神殿の美しさは実物を見ていないのでなんとも言えないが、授業では「どうしてここに補助線を引くのか」疑問に思ったことはある。
 はっきりと疑問を投げつけている書物に出会えて嬉しく思う。
 見慣れているせいもあるが√2長方形は縦に2つ並べれば横置の√2長方形ができる。美しく扱い易い形だ。一方黄金比長方形は並べたり組合わせたりすると別の形ができるので、本当に美しいのか分からなくなるときがある。
 しかし扱い易いということでは正方形が美しいのかもしれないが、安定しすぎて面白くない。そういう意味では√2長方形は安定している気はする。心に響くには少し危なっかしく不安定なところが必要なのかもしれない。